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販促部門に配属されるのは基本的に毎年新卒が一人か二人程度で、売上に直結する営業部門に比べれば少数部署だ。
部署内での結束が強い代わりに、他の部門からの介入にはやや過剰反応するところがある。
「まあ加瀬くんも加瀬くんで大変だったけど」
「俺は代わりは山ほどいたでしょ」
「ああ、代わりに他の奴連れてけって言う営業部長を根気よく説得したんだから」
「そうだったんですか?」
「自分の営業成績考えればわかるでしょ」
ジャケットの胸ポケットを探った課長が煙草を取り出して口に咥えた。
「顧客にもファンが多かったって聞いたよ」
「んー…どうすかね」
「まあ何にせよ俺は君たちふたりを獲得できて大満足ということだ」
今日は飲もう、と課長がご機嫌に笑う。
私と加瀬くんは席をあちこち移動しながら先輩方のお酌をして、結局その日は終電間際までみんなで飲んでいた。
「あー、酔っぱらった!」
帰り道に加瀬くんとふたりになった。
私は会社の女子寮に住んでいて、加瀬くんは普通にひとり暮らしだ。
だけど加瀬くんの家は同じ沿線上で二駅違いなだけだったので、帰り道は同じだった。
駅のホームで電車を待つ間、春の柔らかな夜風が私と加瀬くんの間をすり抜けて、どこかへ消えてゆく。
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