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無機質なアナウンスが流れた。
最終電車が、もうすぐ私たちを迎えに来る。
「あのさ、塔子もこっち戻ってくるんだ」
彼が気まずげに私を窺った。
私は自分の指先の温度が冷えるようで、それが顔に出ないように息を吸った。
――塔子。
同期の中で唯一、加瀬くんから下の名前で呼ばれる女の子。
加瀬くんの、大切な恋人。
「ほらアイツあの通りの性格だろ?榛名とは正直ウマも合わないだろうけど、良かったらまた仲良くしてやって」
「もちろん、塔子も日本に戻ってくるんだ」
「引継ぎ終えて来週には」
「また営業?」
らしいよ、と加瀬くんが頷く。
その横顔がちょっと照れ臭そうにはにかむのを見つめながら、私は皮膚の内側を指で引っ掻かれるような痛みに耐えた。
大丈夫。
もう今さら、どうってことない。
その瞳には映らなくても、時々顔を合わせて話し掛けてもらって、それだけで充分ハッピーな恋だもの。
同じ部署になって話す頻度が増えて。
私の片思いは、多分前よりさらにハッピーだ。
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