SCENE:01/第一歩

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無機質なアナウンスが流れた。 最終電車が、もうすぐ私たちを迎えに来る。 「あのさ、塔子(とうこ)もこっち戻ってくるんだ」 彼が気まずげに私を窺った。 私は自分の指先の温度が冷えるようで、それが顔に出ないように息を吸った。 ――塔子。 同期の中で唯一、加瀬くんから下の名前で呼ばれる女の子。 加瀬くんの、大切な恋人。 「ほらアイツあの通りの性格だろ?榛名とは正直ウマも合わないだろうけど、良かったらまた仲良くしてやって」 「もちろん、塔子も日本に戻ってくるんだ」 「引継ぎ終えて来週には」 「また営業?」 らしいよ、と加瀬くんが頷く。 その横顔がちょっと照れ臭そうにはにかむのを見つめながら、私は皮膚の内側を指で引っ掻かれるような痛みに耐えた。 大丈夫。 もう今さら、どうってことない。 その瞳には映らなくても、時々顔を合わせて話し掛けてもらって、それだけで充分ハッピーな恋だもの。 同じ部署になって話す頻度が増えて。 私の片思いは、多分前よりさらにハッピーだ。
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