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SCENE:02/部外者
霧島塔子は私たちのマドンナだった。
思わず振り返ってしまうような美人で、仕事も誰より優秀で、ストイックで妥協を嫌う彼女は常に淀みない自信を纏っていた。
誰もが憧れる高嶺の花。
そんな塔子が選んだのが、加瀬くんだった。
「え、塔子帰ってくるの?」
朝の通勤電車で一緒になった美琴に昨日の話をすると、少し驚いたような顔をした。
「あれからもう三年か」
「そうなの、衝撃の塔子シンガポール赴任」
「まあ入社二年目での海外赴任は設立以来初の偉業だったもんね、懐かしいわ」
「まさに同期の星」
「ライバルに恵まれなかったわね」
可哀想に、と励ますように美琴が私の肩を叩いてくれるのに苦笑いで応えた。
「てかまだ続いてたんだね」
「普通に順調らしいよ、これは俊平情報」
「なんか言っちゃ悪いけど別にお似合いって感じでもないふたりなのにね」
どちらかと言えば素朴な格好良さを持っている加瀬くんと、華やかで端麗な美人の塔子は、確かに傍目にはそれほどお似合いというわけでもない気がした。
けれどそんな周囲の目など関係ない。
だって入社以来四年間、ふたりはずっとお互いを大切に、愛を育んでいるのだから。
「まあ恋愛は当人同士の話だから」
「そうだけどさあ」
妙に歯切れ悪い顔の美琴を尻目に、ホームに滑り込んできた満員電車に乗り込んで本社ビルを目指す。
毎朝窒息死の危険と戦いながら出社するこの時間にも、給料が発生すればいいのにと思った。
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