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「モテモテだね、ふたり」
「完璧に俊平狙いだよ、俺はおまけ」
「お前がさっさと戻って来ねえから面倒くせえのに絡まれただろ、責任取れよ」
「ええ、私が悪いの?」
加瀬くんの後をゆったりとした足取りで追ってきた俊平は、そんなことを言いながらどうでも良さそうだ。
「俺らもう一軒行くけど梢は?」
「私も行っていいの?」
「まあ俺的には全然来てくれなくていいけど樹がまだお前と喋りたいってよ」
「だって榛名ちょっと目ぇ離すとすぐ聞き役に徹して全然喋ってくんねえんだもん」
「コイツ、二人になればなりに喋るぜ」
「俺と三人でも喋ってよ」
恨めしげに見つめてくる加瀬くんに苦笑した。
そんなに話してなかっただろうか?
昔から自分で喋るよりは人の話してるのを聞く方が好きだったので、大人数になるとつい発言に手を抜くきらいは確かにあった。
でも今日は三人だからそれなりに喋ってるつもりでいたんだけど、足りなかったようだ。
「二軒目では私のトークスキルを披露するよ」
「よしきた、行こうぜ!」
屈託のない笑顔が向けられる。
最近免疫がついてきたとはいえ、不意打ちにはまだ心臓が対応しきれていないので、少し距離を取った。
大事なのは距離感だ。
近付きすぎると、火傷をしてしまうから。
「あれ、塔子?」
隣の加瀬くんが発した声に顔を上げた。
その先には、久しぶりに見る同期の麗しい姿があって、一瞬息を呑んだ。
「珍しいな食堂なんかいんの」
「三年ぶりの食堂の味を噛み締めようかなって思っただけよ、梢久しぶりね」
「おかえり塔子、今週から本社復帰なんだね」
「まあね」
掻き上げた前髪とゆるいウェーブの掛かった長い髪に、すらりと背の高い体型によく似合うグレーのパンツスーツ。
凛と涼しげな目元が私にそつなく微笑んだ。
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