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三年ぶりの凱旋を遂げた我らが同期の期待の星である塔子は、ちらちらと周囲から向けられる好奇や羨望の視線を気にする素振りもない。
一緒に飯食おうよ、と加瀬くんが誘うのに頷いた塔子は、手近なトレーを綺麗な指先で持ち上げる。
「二人はこの四月から人事なんだってね」
「そうなの」
「樹がバックオフィスなんて絶対梢に迷惑しか掛けてないでしょ?」
くすくすと笑う塔子に加瀬くんが憤慨する。
私は慌てて否定した。
「全然そんなことないよ、私の方が加瀬くんに助けられてること多いくらいで」
「榛名はほんと良い奴だな…」
「梢は昔から人のサポートが得意だもんね」
塔子は食堂のミートソースをフォークに巻き付けながら私を見る。
その艶美な微笑が、私は苦手だった。
塔子から見下されてる気になる。
そして多分本当に見下されているけど、それを言わないのが大人の不文律で、そうして人間関係は成り立っていた。
フロントオフィスとバックオフィスの隔たり。
花形と裏方。
女の方が働くことに対しての不安が大きいからこそ生まれる不和は、目に見えないから余計に厄介だ。
「真面目だし、樹が羨ましいわ」
「まあな、塔子に榛名はやんねーぜ」
「はいはい私はひとり孤独に海外営業に戻ってせこせこ働くわよ」
そしてこういう棘に、男の人は鈍感だ。
それに救われる時もあれば、酷く傷つけられる時もあるけれど、今は前者だ。
終わりにしてほしい、と思った。
私の半径30cmだけ、酸素がほんのり薄い。
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