SCENE:02/部外者

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「企画書の直しやんねーとな」 人事部のオフィスに戻って、部長から指摘された部分の直しをふたりで考え直す。 「実際専門性って意外と身に付けにくいよな」 「総合職のジレンマだよね」 「選択制にするなら最初の入社の時に選ばせてやれって話だしなあ」 「でも大学時代って実際の仕事の内容なんてすごい漠然としてなかった?」 「営業ってモノ売るだけだと思ってたな…」 「私も一緒だよ」 就活の時は常に無難でいることが正義で、面接でも模範解答を並べて、志望動機だって建前な学生の方が多いはずだ。 そもそもまだ働いたこともない学生に、働くことや将来に対する明確なビジョンなんて求める方が無理がある。 「三年目の段階とかで選べるといいのにね」 「ちょっと働いてみて自分の興味のある分野の専門性を磨くってことか」 「全員の希望叶えるなんて無理な話だけど」 「でも理想はそうだよな」 そして今の世の中は、それがなければどんどん生き残りも厳しくなっている。 表面上の業務なんかは今後AIなどの発展と共にシステマチックに分配され、それを担っていた人材が行き場を失う時代は遠からずやって来るだろう。 「支援を義務と捉えられればと余計に会社離れも進むだろうしな」 「多様性の時代だからこそ難しいね」 選択肢が無数にあると言うことは、それだけ悩みが増えると言うことだ。 誰もが悩みながら手探りで進む時代。 そこに向けた支援。 「俺は結局、人を繋ぎ留めるのは人だと思う」 加瀬くんらしい意見だと思った。 誰かを信じることが上手な人は、柔軟でしなやかな人だ。 そういう加瀬くんが、私は好きだった。
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