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「榛名、このゴミってどこ捨てんの?」
「こっちと一緒に捨ててきちゃうから貸して」
「悪いな、手伝おうか?」
「私は大丈夫だから洗い物の方お願い」
「了解!」
生ごみをかき集めてゴミ捨て場に捨てに行く。
後片付けが面倒だよねえ、なんて考えながらゴミ捨て場までひとり歩いていると。
「お前はなんで平気で雰囲気壊すんだよ」
初めて聞くような、低い声だった。
ゴミ捨て場の前には長袖の黒いTシャツを腕まくりした加瀬くんと、暖かそうなパーカーを着た塔子が立っていた。
ふたりの間を漂う空気は剣呑だった。
私はさすがに割って入る勇気もなく、一旦立ち去ろうと踵を返す。
「みんな塔子のために企画してくれたんだろ」
「私が頼んだわけじゃないわ」
「何でそういう考え方なわけ?人の親切素直に受け取れねえの、自分の心が曇ってるからだと思うぜ」
「樹の価値観を私に押し付けないでよ」
静かな口論は、妙に迫力があった。
後ろから追いかけてくる声から逃げるように歩き始めたところで、「梢?」と塔子の落ち着いた声が背中に刺さった。
「…あ、えっと、ごめんゴミ捨てに来て」
「こっちこそ変なとこ見せて悪かったわね、私はもう退くから構わず捨てて?」
「でも…」
咄嗟に加瀬くんの様子を窺うと、彼にしては珍しく俯いてこちらに背を向けていた。
塔子はそれを気にする様子もなく普段通りの冷静さで微笑むと、「本当にごめんね」と私の肩を叩いて立ち去った。
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