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正直、残された方が逆に気まずい。
私はどう考えても今ここで一番の部外者で、そんな人間が取り残されても気の利いた言葉など出てくる筈もなかった。
ねえ塔子、私が言うのも変な話だけど。
向き合わないと壊れるよ。
恋愛なんて掴みどころのない不安定な関係を持続させるための努力は、惜しむべきじゃない。
私はこれまでの人生で誰かに誇れるような恋愛経験なんてしてきてないけど、相手に背を向けられる辛さは知ってる。
ただ目を見て、話を聞いて欲しいだけなんだ。
お互いに正直で在りたいだけ。
それを疎かにされると、心がどんどん疲弊して苦しみばかりが増幅してしまう。
「…ごめんね、変な時に来ちゃって」
「こっちこそ悪かったよ、榛名に気遣わせることじゃないのにさ」
「何かあったの?」
「塔子が向井に結構きついこと言って…」
まだ俯いたまま私と視線を合わせようとしない加瀬くんが、どこか困ったような声で話し始めた。
向井というのは営業部の同期だ。
今期から海外営業に異動になったと言っていたから、今後は塔子と同じ部署で働くはず。
「向井も国内に比べて海外はシェア伸ばすの楽勝だとか言って良くなかったんだけど、相手のプライド折るようなことみんなの前で言うのはさ…」
「塔子も気の強いところあるもんね」
「アイツは時々攻撃に容赦がなくてビビる」
加瀬くんが前髪を掻き上げるように頭を抱えていた。
私はゴミを網の中に捨てた。
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