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「確かに塔子は優秀なんだと思うけど仕事って基本チームプレーだろ?」
「そうだね」
「もうちょい協調性持ってほしいってか…」
言葉を探すように視線を泳がせる加瀬くんを見つめながら、私は塔子が羨ましかった。
初めて聞く、加瀬くんの低い声や乱暴な口調。
決して彼はあれを私へは向けない。
他人の考え方を変えようとするのはエゴだと言う人がいるかもしれないけど、私はそれを愛だと思う。
加瀬くんの言う通り、仕事はチームプレーだ。
若い頃は良い。
多少はねっ返りでも優秀なら、それをある種のステータスとして捉えてもらえることも多い。
だけど年次が上がって社内での地位を上げていく段階になれば、その独走癖はたちまち短所として組織からは排斥の憂き目にあう。
彼は、塔子に孤立してほしくなかったんだ。
だから恨まれ役を買って出た。
それを加瀬くんの独り善がりなエゴだなんて、私には思えなかった。
「加瀬くんは間違ってないと思うよ」
「え…」
「ただ伝え方を間違えちゃうと、相手が自分を認めてくれてないんじゃないかって思っちゃうことがあるから」
人と人との繋がりはすごく繊細だ。
丁寧に扱ってあげないとすぐに壊れてしまう。
「塔子の話も聞いてあげて?多分そしたらすぐに仲直りできるよ」
「…榛名ってほんと大人だよなあ」
「他人事だから冷静でいられるだけだよ」
早く戻ろう、と加瀬くんを促してみんなが後片付けをしている川辺まで一緒に戻った。
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