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SCENE:01/第一歩
最初から何も見えてなかったんだ。
目を開けて、息をして、そこから始めよう。
恋なんて、勝手に始めてしまえば誰も文句は言えないのだから。
「お前だけはまじで奥手すぎ」
「だって…」
「毎度モテる男に惚れるくせしてあたふたしてばっかでなんも行動しねーから他の女にさっさと捕られんの」
「わかってるよ!」
痛いとこばっかり突かないで!
お酒を飲めない私はジョッキのオレンジジュースをテーブルにどんと置くけど、これじゃ格好すらつかない。
「樹なんて真っ先に売れるに決まってんだろ」
「私なりにアピールをしようと…」
「梢のアピールってなに?服は脱いだのか?唇は奪ったのか?」
「そんなことするわけないでしょ!」
なんでそう俗物的なの。
居酒屋の対面に座る吉良俊平を恨めしい思いで睨みながら、唇を噛んだ。
「俊平にこの繊細な乙女心はわかんないのよ」
「別にわかりたくもないね」
「どうしてそんな冷たいの」
「いやこんなくだらねえ話に貴重な金曜の夜を使ってやってんのに冷たいとか言われる意味」
「……」
金曜の夜の大衆居酒屋は、学生やサラリーマンと思しき人たちで溢れ返っていた。
スパスパと立て続けに何本も煙草を吸っている俊平は、冷たい視線をこちらに向けている。
何よ、いいじゃない。
少しくらい相談に乗ってくれたって。
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