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「全然、私こそごめんね、間が悪くて」
「樹って本当に口うるさくてうんざりするのよね、私のプライドを自分で守って何が悪いって言うのよ」
「…加瀬くんも悪気はなかったんじゃない?」
「悪気がないのが余計に厄介なの」
塔子がため息を漏らした。
私は塔子の主張も腹立たしい気持ちもわかる。
自分が今まで頑張ってきたことをないがしろにされて、それを否定するなと言う加瀬くんも結構酷だと思う。
どちらも正しくて、それが極端なんだ。
だから衝突してしまう。
考え方や価値観の溝を埋めるのは、大人になればなるほど難しい。
「梢って常に中立公平よね」
「そう?」
「誰のことも否定せずに全員の味方、それって本当に優しさなのかしら?」
切れ長の瞳が私を見透かしているようだった。
私の八方美人は優しさじゃない。
ただの狡さだ。
それを自分自身で理解していても、他者から追及されると、脚が竦むのは何故だろう。
「こんなんだから樹に怒られるのね」
「…塔子は花火しないの?」
「私は先に帰るわ、悪いけどみんなには適当に誤魔化しといてくれる?」
そう言って塔子はその場を立ち去った。
残された私はしばらくベンチの上に座ったまま動けなかった。
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