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「でも月の半分地方ってすごいね」
「俺らの場合は販売店の実地調査と売上促進が主なミッションだったから、まあ必然的に外が多くて」
「出張ばっかりで大変じゃなかった?」
「俺は色んなとこ行けてむしろ喜んでた派」
そんな話をしている間に、もう二人分の航空券を押さえてくれた。
出発日は今週の木曜日、つまり明後日だ。
企画書を課長に提案した時点で通ればこうなることはわかっていたけど、現実感を帯びてくると気持ちが妙にそわそわした。
加瀬くんとふたりで北海道。
そんなこと、先々月までの私は夢にも思っていなかったというのに…。
「ホテルで押し倒しちゃえば?」
水曜日の夜は荷造りに忙しかった。
それを手伝ってくれている美琴は、突然とんでもなく大胆な発言をしてくるものだから服を畳む手が止まった。
「なっ、馬鹿なの?!」
「何をそんなウブな反応してるんだか」
「私は美琴と違ってまともな恋愛みたいなのはご無沙汰なの、免疫薄れてるの!」
「だからまともな恋愛にしちゃいなさいよ」
「今のままで十分なんだって」
加瀬くんとの関係は、とても良好だ。
同じ部署の同志としての結束も日増しに強まってきている気がするし、私の日陰の片思いも相変わらず。
仕事だって新しい部署に来て、新鮮で楽しい。
今、不安定なものは要らない。
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