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「そうして気づけば三十五歳、行き遅れ」
「…十年後の話をしないで」
「もう八年後の話よ、お馬鹿さん」
とりあえず持ってきな、なんて美琴が投げてきたコンドームの袋にぎょっとする。
「何でこんなの持ってんのよ!」
「二十五過ぎたら女だって自ら罠に掛けるんだからこれくらい準備しとかなきゃ」
「美琴さん彼氏いますよね?」
「そう、その彼氏と昨日使った残り」
「やめてよ生々しい!」
年単位で久しぶりに見た気がするそれを美琴に投げ返せば、ふははと高らかに笑っている。
美琴は一年程前から商社マンの彼氏と順調交際中で、幸せそうなのはいいことだが、夜の事情までは知りたくない。
「加瀬くんなんか押して押して押し倒しちゃえばなし崩せるタイプよ、絶対」
「…何を根拠に言ってるの」
「実際塔子はそうして落としたらしいわよ?」
「えええ…」
そうなの…?
経理部で色んな部署の社員からの話を見聞きする美琴の情報網は侮れないので、それなりに信憑性はあるんだろうけど。
「なんか意外、塔子からだったの?」
「加瀬くんが塔子のこと好きになるとしたら結構強引に迫られたからじゃない?」
「でもあの塔子だよ?美人で仕事もできる高嶺の花で、誰でも憧れちゃうんじゃない?」
「馬鹿ね、男なんか結局バカなんだから自分より仕事が出来て無駄に美人な女なんか引け目感じて嫌でしょ?普通の男はわざわざ塔子なんか選ばないわよ」
「そう言われると確かに、そんな気もする」
「塔子は意外と男にモテないタイプ」
「なるほどねえ」
誠に勝手な理屈だけど、理には適っている。
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