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高嶺の花も大変なんだなあと雑草の私は他人事に考えながら、畳んだ服を小ぶりな旅行鞄に詰めてゆく。
「そして梢に朗報をひとつ授けてあげよう」
「急に何キャラなのそれ?」
「ここ最近、加瀬くんと塔子は冷戦状態で破局間近ではとの噂」
「噂でしょ、これまで何回も聞いた」
こういう噂は基本的に信用していない。
恋愛なんて本人が別れると言っていた数時間後に、インスタにラブラブな写真が投稿されるほど高低差の激しいものだ。
一瞬、破局の危機があっても、乗り越えれば絆はさらに強固に深まる。
そうして四年、あの二人は続いてるんだから。
「うお、寒!」
五月上旬の北海道はまだ肌寒かった。
東京ならば暑い日には半袖でも過ごせる陽気だが、日本の北の果ての地ではまだ薄手のコートが手放せない。
「さすが北海道、冬が長ぇな」
「これで五月って結構信じらんないよね」
「とりあえず支社行く?その前にもう軽く昼飯食っちゃう?」
「先に食べた方が時間のロス少ないかも」
「俺、海鮮丼食いたいわ」
せっかく北の大地まで遥々やって来たのだからそれぐらいの贅沢は許されるだろう。
加瀬くんのリクエスト通りに海鮮丼のお店をスマホで調べた私たちは、先に札幌駅近くの大衆食堂で昼食を摂ることにした。
「旨すぎて涙出る…」
「これは幸せすぎて生き返る…」
ふたりして名物の海鮮丼を選んだ私たちは、最初の一口を食べて堪らずに唸った。
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