SCENE:03/急降下

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「働いてて将来不安なことってある?」 「今の職種、最初の希望とは違うので、これから何年頑張ればいいのか先が見えないのが少し不安です…」 「ちなみに何希望でうちに入ったの?」 「僕は人事がしたかったんです」 遠慮がちに話しているのがわかる。 どこまで話して良いんだろう、本音を言うことで人事評価が下がったらどうしよう、そんな不安が新卒の子達からは透けて見えた。 あくまで私たちは今回彼らの定着を支援するために来ているから、何を話してくれても評価に影響はない。 もちろんそれは最初に説明したことだけど、急に本社からきた見知らぬ先輩社員に会社や将来への不安や不満を聞かれれば身構えてしまうのも当然だった。 「本音聞けた感じある?」 「正直、かなり気を遣って話された気がする」 「だよなあ、人事評価に関係ないって言ってもまず俺ら誰だよって話だもんな」 「これまで採用から育成まで人事部が包括的に担ってた意味って、この辺にもあるのかもしれないね」 「新卒との間の信頼関係か」 私たちには現時点で決定的にそこが足りない。 でも最初の説明会から選考中、内定後から入社までのフォローを担当していた人事担当との間には、それが存在するかもしれない。 「でもそれをすると前の人事部に逆戻り」 「現場に来てよかったな」 プロジェクターを片づけながら、加瀬くんが振り向いてにこっと笑った。 「ちゃんと潰すべき課題が見つかった」
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