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私自身は特に人事部への異動を希望していたわけではなかったので、何故だろう、という気持ちもありはしたものの。
企業の経営戦略の根幹に関わる人材開発に携わることのできる部署に配属されたことは、これまでの自分の努力が評価されたようで、とても嬉しかった。
福岡輝彦と名乗った人材開発課の課長は、三十代後半にしては随分と若々しく、素敵な紳士だった。
落ち着いたテノールボイスが耳に心地よく、銀縁のシャープな眼鏡の奥の瞳は穏やかだった。
「この課に新しい人員が配置されるのは実は初めてなんだよ」
「え、そうなんですか?」
「ここはまだ五年前に立ち上がったばかりの歴史の浅い部署だからね、今いる僕たちは全員が設立メンバーなんだ」
人材開発課は、福岡課長を長として、既存の社員十名ほどの、少数精鋭の部署だった。
確かに彼の言う通り、その面々を見回してみると、全員が三十代以上で若手と呼べそうな社員は在籍していない。
聞けば、設立当初、三十代前半から二十代後半の機動力のある人員が集められて、この人材開発課はスタートした。
当時の人事部門は新卒・中途・その他の非正規雇用社員の3軸でリクルーティングから育成、配属後のアフターケアまでを包括的に行っており。
その職務内容が多岐に渡りすぎていたために、本来のミッションである経営戦略に沿った人事配置が疎かになってしまっていた。
それを軌道修正すべく発足したのが。
この人材開発課だった。
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