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「榛名はさ、元々販促だよな?」
「そうなの、異動は今年が初めて、加瀬くんはずっと営業だったよね?」
「そうそう、マーケに四年いた」
知ってるよ。
普段の真面目な仕事ぶりも、俊平からしっかりとリサーチ済みです。
電子部品メーカーである我が社の営業部の中でも、戦略マーケティング課は新しい製品を世に出す上でのマーケティング戦略を練る部門だ。
新製品に関わる重要なミッションであるがゆえに社内でも花形の部門であるが、その分ひとりひとりに掛かる重責も相当なものだろう。
「俊平と一緒だったでしょ?」
「あ、そっか榛名と俊平ってたしか大学から一緒なんだよな」
「そうなの、腐れ縁でね」
「たまに俊平から榛名の話聞いてたよ」
「えっ」
どんな話したの、アイツ。
偶然同じ大学の同じ学部出身だった俊平とは入社以降も何かと仲は良いけど、極端に顔の良い男は信用ならないという乱暴な持論を持っている。
不安な思いが顔に出ていたんだろう、加瀬くんはぷっと噴き出して、食堂のトレーを手に取った。
「大丈夫、そんな変な話聞いてないよ」
「…俊平すぐ大袈裟に話すの、何か言っててもあんまり信じないでね」
「そうなの?でもさ、これからは俺の方が榛名と長いこと一緒にいるようになるね」
楽しみだなあ、と八重歯を見せる。
彼の身軽そうな体が目の前にある。
ねえ加瀬くん、知ってる?
私ね、もう四年も貴方に片思いしてるの。
だからそんなドキドキさせるようなこと、簡単に言わないで。
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