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「梢、疲れすぎじゃない?」
寮の部屋に戻ってすぐ、ぼふんとベッドに倒れ込んだ私に、隣室の大崎美琴が眉をひそめた。
「…気疲れしたよ」
「なんで、今日から新しい部署、念願の加瀬くんと一緒でしょ?」
「だってずっと至近距離でにこにこされるの!こっちは今まで四年間ずっと遠くから見つめてただけなのに!心臓に悪いよ!」
「梢って見た目小動物系で男ウケだけは抜群に良いのにほんともったいないよね…」
「誰かにウケたっけ、私…」
そんな覚え、全然ないよ…。
この四年間はずっと加瀬くんの後追っかけまわしてたし、半分ストーカーと言っても過言ではない。
「仕事の方は?楽しそう?」
「あ、そっちはね、凄くやりがいもありそうで柄にもなく燃えてるの」
「なら順風満帆じゃない」
良かったね、と頭を撫でられて、相変わらずお姉ちゃんだなあと思った。
同期の美琴とは入社前研修の時に仲良くなって以来、五年目の今になってもずっと面倒を見てもらっている。
四人兄弟の長女であるという彼女は、世話好きで優しいしっかり者なのだ。
「加瀬くんと一緒に帰ってきたの?」
「うん、電車の中でも気が抜けなかった…」
「そのうち慣れるよ、さすがに毎日一緒にいたら緊張しっぱなしってわけにもいかなくなるだろうし」
「慣れるのかな…」
入社以来、時々同期会で会うくらいだった憧れの人と、これからは毎日顔を合わせて、一緒に仕事をするなんて。
考えれば考えるほど都合の良い幸せな夢を見てるみたいで。
眠ってしまったら、覚めてしまいそうで。
「寝坊した!」
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