1.はじまり

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1.はじまり

季節は夏。 山の頂きから見下ろすこの景色は美しい。 眠りから覚めて町が動き出す。 昔から変わらない目覚めの時。 いつもジョギングを始めるご夫婦。 今日も元気な姿をみると嬉しくなる。 「おはよう」 「おはよう。今日も暑くなりそうやね」 そんな挨拶があちこちから聞こえる。 顔を合わせると、夏だから…ね! とエールを送る。 少しすると車も増えてきた。 電車も次々と駅に停まっては出て行く。 山を降りてきた本線から降りる人は少ない。 サラリーマン達がぞろぞろと乗り込む。 無言の列はつまらない。 ローカル線の電車から降りた人達は、 急ぎ足で別のホームの電車へ乗り込む。 一休みした電車は、来た道をまた戻って行く。 時間によって学生達が増え、騒がしくなる。 若々しく、日々を楽しんで生きている。 そんな感じは伝わって来る。 でも、最近はみんな下を向いている。 下を向いたまま会話をする。 下を向いたままでもお天気が分かる。 誰と誰が会話してるのかは分からない。 表情は見えない。 表情は必要ない。 表情は気にしない。 それがちょっと悲しい。
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