2.なかやすみ

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2.なかやすみ

昼間のこの町に、人は少ない。 真夏に表を歩く人はまずいない。 屋根の下へ入り、夏から隠れてしまう。 車だけは変わらずに走り続けている。 駅に出入りする電車も少ない。 退屈で、少し罪悪感さえ感じてしまう。 あのローカル線は一両だけになる。 それでも決まった時間に来て、一休み。 それから決まった時間に返って行く。 その素朴な趣に懐かしさを感じる。 配達員だけが、汗を拭きながら走る。 たまに顔を合わせると、頑張って! と応援したくなる。 ごめんね〜と気の毒にもなる。 昼間のドアはなかなか開かない。 運んできた物を、また持ち帰る配達員。 その汗を誰も知らない。 郵便屋さんも、無言でポストに入れるだけ。 「郵便で〜す」 「暑いのにご苦労様。冷たい麦茶でも」  麦茶を飲む間、うちわで扇いであげる。 「ありがとうございます」 そんなささいな会話が懐かしい。 そんな小さな思いやりが懐かしい。 軒に日除けを伸ばしている商店街。 入る人が来なくても、変わらない風景。 いつまでも頑張って欲しいと思う。 車は大きな建物へと入っていく。 中はきっと涼しい領域なのだろう。 夏休みに子供達の姿も見かけない。 虫の音や羽の音、幹をかじる音。 それが少なくなったと嘆く人。 必要なくなったものは消えて行く。 必要としなくなったから消えて行く。 それに気づかず嘆く人。 なかやすみ。 この町も景色もなかやすみ。 そしてまた山の頂が近づいてくる。
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