あなたの喪主にならせてね

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 わたくしは貴子さんを行李に詰めました。  蓋の上から行李に抱きつくと、中から貴子さんの細い泣き声が聞こえて参ります。  とても悲しいお声でした。  わたくしは畳の上に散らばる男物の着物や、貴子さんの丸の眼鏡をぼんやりと眺め、呆けておりました。  きっとあの親子縞は貴子さんのお父様のものでしょう。とてもご趣味がよろしくていらっしゃるのに、きっと袖を通されることは二度とこないのだわ。  あの柄足袋はお兄様のものかしら。  そんな取り止めのないことを、いつまでもいつまでも考えておりました。  気が付くと、泣き声は止んでおりました。  お線香はとっくに燃え尽きて、空には三日月がかかっています。  朝になったら、わたくしたち、どうなってしまうのでしょう。
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