あなたの喪主にならせてね

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 ねえ。貴子さん、わたくし、明日にはお嫁に参りますのよ。次にお会いするときには、少女ではなくなっているのだわ。振袖も、もう着られないわねえ。牡丹の着物はお気に入りでしたのに。  ねえ。貴子さん、明日からあなた、ちゃんとひとりでお昼を頂けますの? いつも御本に夢中でお昼休みを過ごしてしまうから、わたくし心配よ。  ねえ。貴子さん、学校のお庭に一緒にお花の種を植えたのを覚えていらっしゃるかしら。たしかゼラニウムだったわ。一緒に咲くのを見られなくて残念ね。  ねえ。貴子さん、明日からあなたが可愛い方だってこと、誰が教えて下さるのかしら。あなたときたらお勉強は得意なのに、それだけすっぽり頭から抜けてしまうんだから。  ねえ。貴子さん、学校のお友達と仲良くなさってね。でも、わたくしと行ったパーラーだけは教えてはいやよ。わたくしと貴子さんだけの秘密にしておいてね。  ねえ。貴子さん、夏祭りのお話はうそだったの。わたくし、来年の花火がないこと、ほんとうは分かっていたのよ。  ねえ。貴子さん、貴子さん、貴子さん、貴子さん、貴子さん、お話したいことがたくさんあるのよ……。
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