あなたの喪主にならせてね

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 わたくしが貴子さんを始めてお見掛けしましたのは、女学校の入学式でした。  折しも快晴で、はらはらと桜の花吹雪が舞っておりました。今日の佳き日、という言葉がまこと相応しい日でありました。  貴子さんは、お母様とお兄様に連れられて、卸したての、ぴかぴかの制服をお召しになっていらっしゃいました。  黒いセーラー服の襟には白のラインが三本入っていて、ゆったりと結んだリボンもやはり純潔の白。校則通りのスカァトの長さ、靴下の丈。きっちり結われたおさげ。それからなんと言っても、丸の眼鏡をかけておりました。 「野暮ったいお方ですこと」と、陰口をする生徒もありました。きっと品位に欠けたお方の戯言でありましょう。  彼女たちは、貴子さんが身に纏う黒と、桜の淡い白の濃淡を味わうだけの機微を持ち合わせてはいないのです。  わたくしは陰口を許せない一方で、彼女たちを哀れに思い、また密かな優越感をも抱いておりました。  貴子さんの高潔な美しさは、貴子さんの瞳に宿る知性は、わたくしだけが知っていれば良いのです。  それでも、貴子さんに面と向かっていぢわるをする者はおりませんでした。  お兄様の存在があったからでしょう。それはもう立派な海軍将校さんでございましたから。  かくいうわたくしも、この時は白い詰襟を眩く思い、はしたなく胸をときめかせたものです。お嫁にゆくなら、貴子さんのお兄様のような殿方のもとが良いと、本気で願っておりました。  実現したなら、貴子さんともっとお近づきになれるはずなのですから。
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