あなたの喪主にならせてね

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 それから数か月も経たないうちに、わたくしに縁談のお話が舞い込んで参りました。わたくしのささやかな結婚への憧れは、新婚への憧れは、あっけなく潰えてしまったのです。  お相手は三十も年嵩の殿方でございました。  一度だけお会いを致しました。  あのぎょろりとした眼。  まるで自分が品定めをされているような、妙な心持ちにさせられました。  お食事をご一緒致しましたけれど、乱杭歯からぼろぼろと食べ物がこぼれ落ちていくのが見て取れる有り様。  きっとわたくしが心を尽くして作った食事も、ああやって食べ溢されてしまうのだわ。そう思いますと、縁談を持ってきたお父様が憎くて、憎くて、たまらなくなるのです。  女学校では、在学中に結婚を理由に退学することが名誉とされております。ですから、わたくしはたくさんのお友達にお祝いを頂きました。クラスの皆さんから寄せ書きを頂戴いたしました。  けれど、嬉しいふりをすればするほど、わたくしは悲しくなってしまうのです。辛くなってしまうのです。  あの殿方に娶られるまで、あと半年もございませんでした。  女の身のわたくしでは、お父様の決めたことに逆らえません。ですから、少しでも心残りを減らしておきたく思ったのです。  わたくしの心残り。  それは貴子さんに他なりません。  わたくしは入学式で貴子さんを見出していながら、未だに声のひとつもかけられずにいたのですから。  臆病なのです。わたくしは正真正銘の恐がりなのです。  けれど、わたくしが自由でいられるのは、あと僅か半年。  もはや何を恐れるものもない。  嫌われても、大嫌いになられても、半年後にはわたくしは貴子さんから引き離されてしまう。好きでもない男の腕に巻かれてしまう。  わたくしは貴子さんにお声がけさせて頂くことに決めました。
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