あなたの喪主にならせてね

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 ねえ。あなた、小鳥遊貴子さんというのでしょう。面白い響きですこと。  ねえ。貴子さん、何を読んでいらっしゃるの。まあ、たいそう難しい御本をお読みになるのねえ。どんな物語なのか、わたくしにお話しくださらない?  ねえ。貴子さん、この間の御本の続きを聞きたいわ。どこか静かな場所に行きませんこと。中庭のベンチがいいわ。きっと風が気持ちよくてよ。  ねえ。貴子さん、あなたってとても頭がよろしくていらっしゃるのね。試験の張り出しを見ましたわ。わたくし、英吉利語が苦手だから羨ましい。  ねえ。貴子さん、少しだけ眼鏡を外して見せてくださらない? 誰にも言いませんから。わたくしにだけ、ちょっとだけ。  ねえ。貴子さん、お兄様はご健在かしら。ふふ。存じ上げていてよ。入学式で皆さま、あなたのお兄様に釘付けでしたもの。  ねえ。貴子さん、パーラーに行きません? いいじゃない。見つかったら謝ればいいだけのことよ。そうそう。この間、貴子さんがお読みになっていた本に出てくる女給。あの子が働いてそうな店を見つけましてよ。  ねえ。貴子さん、あの御本の殿方をどうお思いになる? わたくしはあまり好ましく思えませんわ。そう? そうですわよね? ふふ。安心いたしました。  ねえ。貴子さん、わたくし浴衣を誂えようと思いますの。お揃いに致しましょうよ。髪もたまには外巻きにされてはいかが? きっとお似合いでしてよ。わたくしが結って差し上げますとも。  ねえ。貴子さん、そろそろ夏服に着替えた方がよろしいのではなくって? 今の冬服もお似合いですけれど……。そうだわ。わたくし、ハンケチを濡らしてきて差し上げます。  ねえ。貴子さん、夏祭りの花火は綺麗でしたわねえ。来年もまた二人で、お揃いの浴衣を着て散策できたらどんなに良いでしょう。  ねえ。貴子さん、御気分が優れないの?  ねえ。貴子さん、最近、なんだか海軍さんが剣呑ですわねえ……。  ねえ。貴子さん、どうか気を悪くしないでくださいましね。わたくし、あなたのお兄様のことで、お父様にお願いできることがあるのではないかと思うの……。
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