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リー……ン。リー……ン。
お弔いの行列が近づいて参ります。
わたくしは貴子さんのご自宅に、初めて伺いました。清貧という言葉が似合う、如何にも士族らしい設えでございました。
わたくしは長いこと、貴子さんを見下ろしておりました。
項垂れた貴子さんの白いうなじから目が離せなかったのでございます。
お線香の煙が一筋、ゆらゆらと漂っております。
貴子さんは、着古した黒いセーラー服を身に着けていらっしゃいました。恰好としましてはあの四月の空の下で見たものと代わりないのに、酷くみすぼらしい。
こんなものが貴子さんの喪服になるのかと思うと、いたわしくてなりません。
貴子さんはほつれたおさげを揺らしました。
泣いていらっしゃいました。
わたくしには見覚えのある涙でございました。絶望です。
ちっとも可愛くはありませんでした。頬は丸みを失って蒼褪め、瞳は虚ろ。わたくしの貴子さんはどこへいってしまったのでしょう。
「死んでしまいたい。
わたしも一緒にここに入りたい」
か細い指が三人分の骨壺を撫でます。
リー……ン。リー……ン。
お止しになってよ。貴女がこの世からいなくなるなんて。
わたくしは寸でのところで耐えました。
けれど、きっと、おそらく、たぶん。
時間が悪かったのでございます。
ふすまから差し込む西日に、夜の帳が勝ってしまったのです。
一気に部屋が暗くなってしまいました。
わたくしは貴子さんの首を絞める気に「成り」ました。
だって、貴子さんがそうされたがっていたんですもの。
リー……ン。リー……ン。
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