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はあ。はあ。はあ。はあ。
わたくしのものとも、貴子さんのものとも区別のつかない息が部屋を満たしております。
わたくし、殺し損ねてしまいました。
わたくしの頬は、熱を持ってひりひりと熱くありました。
貴子さんにぶたれたのです。
「死ぬ気なんて、ないじゃないの」
「違う、違う、違う」
「それなら、どうしてわたくしをぶったの。
わたくし、貴子さんとなら心中しても、いえ、貴子さんと心中をしたかったのよ」
貴子さんは部屋の隅っこでぶるぶる震えておりました。まるで子猫みたい。スカァトの裾から白い太ももが見え隠れしています。わたくしが直して差し上げなくては。
わたくしはなるだけ優しい素振りで手を伸ばして、貴子さんににじり寄りました。
そうして、右側のおさげを結ぶリボンを解きますと、はらりと艶のある黒髪が弾けるように、貴子さんの白い肌に散らばりました。
「いや、」
「ごめんなさいね」
「触るな、」
「ほんとうに、ごめんなさい」
なんのために謝っているのか自分でも分かりませんでしたが、左側のおさげも解きました。引き抜いたリボンに、貴子さんの黒髪の一本、二本が絡んでいます。
溜息がでるほど、貴子さんが愛おしく感じられました。
「あなた、けっきょく夏祭りに髪を結わせて下さらなかったわねえ。わたくし、ずっとあなたの髪を結い直して差し上げたいと思っていましたのに」
「イ、チカさん……、」
貴子さんのきれいな黒い瞳に、わたくしが映っておりました。
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