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1.拾いもの
ここ二、三年で季節の変わり目はさっぱりわからなくなってしまった。日本は春夏秋冬、季節が移ろいそれが魅力的でもあるはずなのに春と秋を感じることが少なくなってしまったように思う。
「うわ、寒っ……」
個人経営の小さなバーでバイトを終えた日下部陽也は上着の襟を掴んで首元に寄せた。つい最近刈り上げた襟足から寒さを感じてぶるりと震える。マフラーを巻くかどうかまだ微妙な季節だがさすがに深夜を過ぎた時間は寒い。
今日に限ってラストまでのシフトを入れられてしまい終電などとっくに無くなっている。タクシー代は出してくれるとオーナーに言われたけれど、歩いて帰れる距離のため飲み屋街を抜けていく。
ネオンの煌めく街は帰れなくなった人がフラフラと歩いたり、夜の商売を終えた人達が飲みに行こうと足早に急いでいたり、ホテルに入ろうとうろうろしているカップルがいたりと見慣れた光景になってきた。
「お兄さん、始発まで二千円でいいよ!」
「いや、いいっす……」
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