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 扉に着いている鈴の音で目を覚ました。やばい、お客さんだ。慌てて飛び起きると、受け付けの前に急ぐ。 「いらっしゃいませ。お待たせしました」  笑顔で挨拶したが、正面には誰もいない。 「あの、ここで色々気持ちいいことをしてもらえるって聞いたんですけど」  少し下から声がして視線を落とすと、1匹の猫がいた。しかも、器用に2本足で立っている。首を傾げる姿に愛らしさを覚える。 「あの、聞こえてます?」  発せられるのは落ち着きのある男性の声。戸惑いながらもメニューを取り出し、その猫に見せた。 「ど、どれがいいんですか?」  メニューを見せつつ、その猫を観察する。継ぎ目がないからぬいぐるみではなさそうだし、身体のなめらかな動きからロボットではない。 「あの、何か僕の顔についています?」  猫がなんとなく困ったような顔をした気がした。そんな仕草もやはり可愛らしい、って現を抜かしている場合じゃない。 「いや、その、初めて方には色々伺っていることがあって」  とアンケートを持ち出す。さすがに猫だからとは言えなかった。でも、よく考えたら猫の手では書けないか。私は自分でペンとアンケートをついたファイルを握り、質問していった。 「お名前は?」 「ナナミと申します」  ナナミか・・・・・・、と声を漏らすと、品良くナナミさんが笑った。 「やっぱり不思議そうな顔しますよね。男なのに女性みたいな名前だって」  それ以前に猫だけど、と突っ込みたくなる気持ちを抑える。 「僕の名前、もよ・・・・・・髪型から決めたみたいで」  ナナミさんは頭を撫でる。彼の模様は所謂ハチワレという頭の上半分は黒で真ん中から末広がりに白くなっている模様だった。しかし、ナナミさんはその分かれ目が少し右に寄っている。ナナミって七三ってこと。 「あぁ、なるほど」  アンケートを埋めながら何度も頷いた。 「どの辺りが痛いとか凝ってるとかありますか」 「うーん、全体的やってほしいですけど。強いて言えば背中とかかな。猫背なんで」  そりゃ猫だからね。冗談めかして笑うナナミさんにツッコミを入れたかった。しかし、口をつぐみ堪える。  しばらくして、ナナミさんは期待の眼差しを向けながら、メニューを肉球で指す。 「じゃ、これお願いします」  それは頭から足までの全身コースだった。
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