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昔話?
夏休み、都会からど田舎の婆ちゃんの家に子供だけで遊びに来た孫娘達は、すぐにやる事も無くなり、暇を持て余していた。
「暇だねー。宿題も終わっちゃったし、もっとゲームとか持って来れば良かったねぇ。」
「テレビもチャンネル少ないし……
この時間帯、時代劇しかやってないんだけど。」
すると婆ちゃんが……
「そんなに暇なら、婆ちゃんが【昔話】をしてやろう。」
と言って、こんな話をしてくれた。
「昔、山向こうの寺の辺りであった話しじゃ……
近くの村に松太郎という、ちょっと体の弱い男が住んどったんじゃそうな。
体が弱いもんで嫁の来ても無く、独りもんじゃったが、子供好きでよう遊んでやりよったそうじゃ…… 」
「「へぇーそれで?」」
山向こうの寺というのは、婆ちゃんの住む地域から少し離れた山の中にある某戦国武将縁の古いお寺です。
「4月の半ばのこと、松太郎が寄り合いに行くと、近所に住む竹二に声をかけられたんじゃ。」
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「どうした松?元気がないが、またどっか具合が悪いんか?」
「あぁ…ちょっと前から、あんまり調子が良く無いんじゃ……
竹…何か良い薬知らんか?」
「ワシに聞かれてもなぁ……
医者じゃないから、ようわからん。」
「そうか…そうだよなぁ…… 」
松太郎は酷く辛そうだったので、竹二は松太郎を励ます為に、冗談である話をしてしまいました。
しかし、寄り合いの酒の席だったので、竹二は松太郎にした話を直ぐに忘れてしまったのでした。
それから暫くして、村の子供が行方不明になり、村人総出で探しましたが、一向に見つかりません。
もちろん警察も、子供の行方を探しています。
何時も具合が悪そうな松太郎も、率先して子供の親を励ましながら、毎日捜索していました。
「あっちの溜池に、落ちたのかもしれん!」
「もしかしたら、山の方かもしれんから、明日はこっちに行ってみよう!」
などと言いながら、松太郎は何時もと違い生き生きとしています。
そしていつの間にか、捜索隊のリーダーの様な立場になっていました。
最初は『子供好きな男だから、コイツも一生懸命なんだろう。』と思っていた竹二でしたが、松太郎の様子に日に日に違和感を感じていきました。
そんな中…行方不明の子供の親が、村のあちこちにはためく鯉のぼりを見ながら、悲しそうにつぶやいているのを、たまたま竹二は聞いてしまったのです。
「せめて誕生日の、端午の節句の日までには、見つけてやりたいのぅ…… 」
それを聞いて、竹二は松太郎に寄り合いでした話しを思い出し、真っ青になりました!
竹二は松太郎に気づかれない様に、こっそりと捜索隊を抜け出し、町にある警察署に慌てて馳け込みました。
「お巡りさん!行方不明の子供を拐ったのは、たぶん松太郎だ!」
突然、警察署に血相を変えて駆け込んで来た竹二に、巡査達はビックリしました!
「松太郎言うたら、捜索隊のリーダーの男じゃないか!なんでそんな男が、犯人だって言うんだ?」
と訝しむ一番偉そうな巡査に、竹二は4月の寄り合いの時に松太郎にした話しをしました。
「寄り合いの時…体の弱い松太郎に『端午の節句生まれの子供の生肝(肝臓)を食べたら、精がつく。』と言う話をしてしまったんじゃあ!!
酒の席での話しだから、今までワシもすっかり忘れとった!
じゃがさっき、行方不明の子供は『端午の節句生まれだ。』と親が言ってるのを聞いて思い出したんじゃ!」
「「なんだって!?」」
竹二の話しを聞いた、巡査達は一気に顔色を変えました。
「他にもっとそれらしい話は、ないんか?」
「松太郎は、村じゃ子供好きで知られている男だ。誰にも怪しまれずに、誘拐するなんて簡単な事じゃ!
頼む松太郎の家を調べてくれ!
よう考えたら、アイツの家はまだ調べとらんかったんじゃ!!」
竹二からその話しを聞いた警察は、急いで松太郎の家を調べる事にしました。
その話しが本当なら、行方不明になって直ぐ捜索を始めたので、子供を遠くに隠す暇は無かったはず……
更に松太郎自ら、近くの隠せる様な場所も全て探し尽くしたので、探していないのは竹二の言う通り、松太郎の家だけでした。
「まさかあの人が、そんな事をする訳が無い…… 」
「きっと竹二の勘違いだろ?」
村の皆んながそんな話しをしていると、松太郎の家の納屋を捜索していた警察が、屋根裏から行方不明の子供と思われる遺体を発見したのです。
竹二の言った通り、子供を拐って殺したのは松太郎でした。
「やっぱり犯人は松太郎じゃったか……
どうしよう…ワシがとんでもない事を言うてしまったばっかりに……… 」
その後の取り調べで、子供は行方不明になって直ぐに殺され、【肝臓(生肝)】を抜き取られていた事が解りました。
なんと松太郎は本当に子供を拐って、【生肝】を食べていたのでした!
その上で何食わぬ顔をして捜索隊のリーダーに収まり、皆んなを騙して自分を捜査対象から外す様に、巧みに仕向けていたのです。
松太郎は警察に逮捕され、一応事件は解決しました。
一方…竹二は自分が余計な事を言った所為でこんな凄惨な事件が起こってしまった事を後悔し、村に居づらくなって一家で何処かに引越して行ったそうです。
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「という話があったんじゃ。 」
「へぇ… 」
「怖いねーお姉ちゃん。私、夜1人で寝れなくなりそうだよー。」
「じゃあ、ワシは畑に行って来るけぇの…… 」
怖がる孫娘達をよそに、そう言って婆ちゃんは畑に行ってしまいました。
広い田舎の家に残された孫娘達は、ちょっと複雑な気分になりました。
「さっきのって、【昔話】じゃなくて【昔の話し】だよね……
しかもリアル【猟奇殺人事件】。」
「そうだねぇ。本当に、夜寝れなかったらどうしようか?」
その夜2人はやっぱり眠れず、枕を持って婆ちゃんの部屋に行きました。
「「婆ちゃん…帰るまで婆ちゃんと一緒に寝てもいい?」」
「あぁ、ええよ。」
孫娘達は婆ちゃんと、川の字に並んで寝転がりました。
「ほぉじゃ。寝れんかったら、婆ちゃんがまた【昔話】でもしてやろぅかのぅ?」
「婆ちゃんの【昔話】はコワイから、もういいよぉ~。」
「「おやすみなさい。」」
「はい、おやすみ。」
こうして孫娘達は親の迎えが来るまで、婆ちゃんと川の字に仲良く並んで寝る事になりました。
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※1
5月5日の事。この話しは、もちろん迷信です!もしくは、竹二の作り話しだったのかも……
※2
農機具等をしまっておく大きな倉庫。
田舎では、普通の家ぐらいの大きさがあるのはザラです。
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