8人が本棚に入れています
本棚に追加
「おかえり~今日遅かったね」
帰宅すると、母が心配そうに言う。
「うん。ちょっと部活関係で」
そう言うと、母は少し目を丸くして私を見る。
「何か良いことでもあった?」
「え?」素朴に振り返る。
「良い顔してるから」
「うそ」私は自身の頬に手を当てる。
「少し不安だったのよ。陽葵、最近ずっと疲れている感じだったから。でも、何かちょっと安心したわ」
母は満足気にそう言うと、「今日のごはんは肉じゃがよ~」とキッチンへと向かった。
私は荷物を置く為、自室へと上がった。
「良い顔、なのかな」
室内の壁に掲示されている新聞を見る。そこには「紫野学園、惜しくも敗退!」との見出しと共に、紫野学園の選手が甲子園の土をシューズケースに入れる写真が掲載されている。もう穴が開くほど閲覧したものだ。
二年前の中学二年生の夏、偶然テレビで見た甲子園に出場していた紫野学園高校を見たことで、紫野学園への進学および吹奏楽部への入部を決めた。
私も紫野学園高校の一員として甲子園に立ち、熱い熱を放つ球児を応援したいと心から思ったのだ。
ただでさえ私立の学校に、世間的にも厳しいと有名の吹奏楽部への入部に、身内にも心配をかけていた。
それでも挑戦しようと思えるほどに、この写真の彼らから感銘を受けたんだ。
やっとスタートラインに立てたところなのに、簡単に心が折れるなんて情けない。
私は依都みたいに現実的でもなければ、翔吏のように強気なメンタルも所持していない。
だが、夢に向かう根性だけは、人一倍持っている。
試合はまだ始まったばかり。これからが本番なんだ。
「ごはん準備できたよ~」との声が届いたことで、「はい!」と威勢よく返事をした。
第一試合 部活動vs自分 完
最初のコメントを投稿しよう!