第一試合 部活動vs自分

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第一試合 部活動vs自分

「一年、ペース落ちてるよ」  ストップウォッチを所持する先輩が叫ぶ。  怒気の孕んだその声に、私たち一年生は「はいっ」と背筋を伸ばして速度を上げた。  あと数分で終わると理解しつつも、身体は言うことを聞かない。  曲がり角で先輩の姿が見えなくなった瞬間、膝をついて息を整えた。  思わず立ち止まったことで、溜まっていた疲労が一気にふくらはぎに流れ込み、床に足が貼りついたかのように硬直してしまう。  紫野学園高校の吹奏楽部に入部して早一ヶ月。  私たち一年生の日課は、ほぼ体力作りで終了していた。  その中でも一番過酷なのが、校舎内を利用した三十分間走だった。  外は正式に「運動部」と定義されている部活動が占拠していることから、便宜上「文化部」である吹奏楽部の人間は利用できない。その為、三十分間走は、校舎内二階と三階を往復するコースとなっている。  平坦を走ることだけでも体力を消耗するにも関わらず、階段の上り下りに加え、フローリングの硬さが膝に追い打ちをかける。  少しずつ慣れてきたとはいえ、いまだ終盤には脚が悲鳴を上げていた。  私は、いつから吹奏楽部を「文化系部活動」だと勘違いしていたのだろうか。 「陽葵(ヒマリ)、何、休憩してるの」  同期の軽蔑の声色で正気に戻る。  私は、「ご、ごめん。すぐ行くから……」と苦し紛れの弁解をした。  背筋を伸ばして前方を走る皆を一瞥する。  同期のほとんどは、中学校でも吹奏楽部であったことから、体力作りや先輩の叱責に慣れているのだろう。  覚悟していたとはいえ、目に見えてわかる格差にやはり絶望してしまう。  私は額の汗を手で拭うと、再び走り始めた。 ***
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