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「吹奏楽部は運動部…………」
教室内の机に突っ伏したまま呟く。
毎日行われる過酷な練習メニューから、まだ高校一年生ではあるものの睡眠だけでは回復が追いつかなかった。
「吹部って運動部でしょ」
淡々とした声で反応がある。
声の主、長谷川 依都(ハセガワ イト)は、お弁当袋を机に置きながら前座席に腰をかける。
肩の高さに切り揃えられた黒漆の髪に、雪白な細い指が視界を過った。
冷静で落ち着いた声に現実に引き戻される。授業の記憶が飛んでいるが、依都がここに来ているということは、お昼休みに入ったのだろう。
私は渋々身体を起こすと、鞄から菓子パンの入った袋を取り出した。
私がこの学校、紫野学園高校の吹奏楽部に入部すると決めた中学二年生の頃に、軽く話は聞いていた。
だが、体験していなかっただけに信じていなかった。
「吹奏楽部って、ある意味運動部やで。特に一年生の頃は毎日体力作りばっかやし、中々楽器に触らせてもらえへんな」
当時中学校の吹奏楽部員であった友人の訛りの混じった言葉が脳裏に反響する。
未知の世界であるが故に想像ができなかったこと、さらに高ぶる熱を鎮火されかねない言葉にムッとなり、当時は話半分で聞いていたのだ。
彼女の言葉も、今なら深く頷くことができる。
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