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「吹部は中学生の頃から部活に入ってる人ばかりでしょ。それなのによく挑もうと思えたというか」
「無謀だと思っているでしょ」私は唇を突き出す。
「いや、素直に驚いている」
依都は真顔のまま答える。「それもこの学校で、なんてさ」
私の通う「紫野学園高校」は、部活動に力が入っていることで有名だ。
外から確認できる垂れ幕や横断幕の数に、学外にも練習場のある整った設備環境から、入学前からそういう学校だとは認識していた。
もちろん吹奏楽部も例外じゃない。
毎年行われるコンクールでは金賞を受賞し、さらに全国大会の出場経験も多数、と輝かしい成績を残している。
そんな学校の部活動に、私は根性だけで乗り込んでいたのだ。
しのぎを削って部活動に打ち込むこの場所で、素人が参入するのは無謀だとは理解している。
とはいうものの、少しくらい夢を見たかったのだ。
「だってさ、感動したんだもん……」
「中学二年生の頃にテレビで見た甲子園でしょ。知ってる」
依都は、卵焼きを箸でつまみながら、はいはいと頷く。
「高校野球の応援がしたいから吹奏楽部に入りたいって思うのは、よくある話だよね」
全く持ってその通りなので、ぐうの音も出ない。
「眩しい世界しか見ていないからだよ。ほら、よく考えてみて」
そう言うと、依都は細くて白い人差し指を立てて切り出す。
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