出会い

3/7
前へ
/127ページ
次へ
ゆっくりと腰かけて手に持っていたギターを抱える。右手の親指で上から順に弦を鳴らしていった。 …うん、合ってる。 予想通りチューニングされたままのギターをもう一度しっくりくる位置で抱え直した。 ほんの少し、ほんの少しだけなら。 ———♪... 左手で弦を押さえて、右手でストロークを始めた。そうして紡ぎ出された音に控えめに声を乗せる。これはまだ完成していない、練習中の曲。 静かな部屋にギターの音と自分の声が響く。 生温い空気も、ベタつく体も、今は気にならない。音が、リズムが体を満たしていく。 ああ、やっぱり、音楽好きだなあ。 思わず緩む顔を隠すこともせず唄い続けた。そして一番を唄い終え、二番に差し掛かる時、 ゴツンッ! 「っ!?」 扉の向こうで音がした。咄嗟にギターを弾く手を止めて口を噤む。 「あー…」 続いて、男の人の声がした。怯えながら扉を見つめる。 誰かいる。どうしよう、最悪だ。歌を、ギターを聞かれてしまった。 ばくばくと煩い心臓の音を感じながら、必死に体を動かした。抱えていたギターを棚に片付けて、椅子を元の場所に戻す。机の上に置いておいた鞄を掴んで、あとはどうここから逃げ出そうかと考えていたその時、扉が開いた。 入って来た人物に目を見開く。 「ごめん…邪魔しちゃって」 「…っ」 申し訳なさそうな顔で現れたのは、隣のクラスの桐島君だった。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加