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ゆっくりと腰かけて手に持っていたギターを抱える。右手の親指で上から順に弦を鳴らしていった。
…うん、合ってる。
予想通りチューニングされたままのギターをもう一度しっくりくる位置で抱え直した。
ほんの少し、ほんの少しだけなら。
———♪...
左手で弦を押さえて、右手でストロークを始めた。そうして紡ぎ出された音に控えめに声を乗せる。これはまだ完成していない、練習中の曲。
静かな部屋にギターの音と自分の声が響く。
生温い空気も、ベタつく体も、今は気にならない。音が、リズムが体を満たしていく。
ああ、やっぱり、音楽好きだなあ。
思わず緩む顔を隠すこともせず唄い続けた。そして一番を唄い終え、二番に差し掛かる時、
ゴツンッ!
「っ!?」
扉の向こうで音がした。咄嗟にギターを弾く手を止めて口を噤む。
「あー…」
続いて、男の人の声がした。怯えながら扉を見つめる。
誰かいる。どうしよう、最悪だ。歌を、ギターを聞かれてしまった。
ばくばくと煩い心臓の音を感じながら、必死に体を動かした。抱えていたギターを棚に片付けて、椅子を元の場所に戻す。机の上に置いておいた鞄を掴んで、あとはどうここから逃げ出そうかと考えていたその時、扉が開いた。
入って来た人物に目を見開く。
「ごめん…邪魔しちゃって」
「…っ」
申し訳なさそうな顔で現れたのは、隣のクラスの桐島君だった。
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