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重なった視線に体が強張る。
やっぱりこんなところで弾くんじゃなかった。そう後悔してももう遅い。先程の彼の言葉から、聞かれていたことは確かだった。
「私こそ、ごめっ…んなさい」
「え…あ、待って!」
絞り出すように呟いた謝罪が彼に聞こえたのかは分からない。見回りの先生だったらまだよかったものの、よりによってまさか同級生に聞かれてしまうなんて本当に最悪のパターンだ。
今すぐにでもこの場所のから居なくなりたくて、俯いたまま駆けだすと未だに扉のところで立ち尽くす彼の横を通り過ぎた。
はずだった。
「わっ!」
バサバサバサッ!
彼の横を通り過ぎて数歩進んだ時、何かが落ちる豪快な音と慌てた声が後ろから聞こえてきた。思わず足を止めて振り返る。
目に入ってきたのは、床に散らばったノートや教科書と、開きっぱなしの鞄が肩からずり落ちそうになっている彼の姿だった。
「あー…本当ごめん、騒がしくて」
申し訳なさそうに、それでいて少し恥ずかしそうに頭を掻いた彼は落とした物を拾うために鞄を床に置き屈んだ。
もしかしたら通り過ぎる時にぶつかってしまったのだろうか。でも当たった感覚はしなかった、と思う。ここから逃げることに必死だったからあまり覚えていない。さっきとは別の意味で焦りが増してくる。
正直、本音を言えば今すぐにでもここから走り去りたかった。さっきの歌とギターを聞かれてしまったことで私の心はとっくに限界を迎えていたのだ。
だけど、それは出来なかった。
彼が今拾い集めている荷物が落ちたのは自分のせいかもしれないということと、彼の右腕に巻かれた包帯が逃げ出したい気持ちにストップをかけたから。
「え…」
ゆっくりと彼の前まで戻り、同じように屈んで落ちたものを拾う。
そんな私の様子に彼は驚いて声をこぼしたけれど、顔を見ることは出来なくて黙々と散らばったものを拾い集めた。
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