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「…はあっ…疲れ、た」
靴箱に手を置いてふらつく体をなんとか支えて立つ。苦しい呼吸と高鳴った鼓動を鎮めようと胸の辺りに手を置いてゆっくりと深呼吸をした。普段運動なんて碌にしていないせいで、少し走っただけでこの有様だ。
少し落ち着いた頃、恐る恐る後ろを振り返ってみた。
「……はあ」
しかしそこに彼の姿はなく、思わず安堵のため息が零れた。
私なんかのことを追いかけてくるわけがないと分かっていても、逃げてきてしまった手前もしかしたらという可能性を気にせざるを得なかった。でもそれは杞憂に終わったようでほっと胸を撫で下ろす。
ある程度落ち着いた体を動かして、外履きに履き替えて校舎を出る。家に向かうまでの道のりを歩きながら、自分の犯してしまった失態に心が沈んでいく。
隣のクラスの桐島朝日君。明るくてかっこよくて、女子の噂話にはいつも名前が挙がる人だ。もちろんいい意味で。私と違って友達がたくさんいて、笑顔がとても眩しい人。
そんな彼は運動神経も良くて、野球部で確かエース?だったはず。だった、というのは先程も見た彼の右腕に巻かれている包帯が理由で。どうやらこの前の夏の大会でケガをしてしまったらしく、今は練習に参加出来ていないのだとか。これも女子達の噂話から聞いた。
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