出会い

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出会い

部活動に励む生徒の声が響く放課後の校舎。 高校二年生の九月。夏休みはとっくに終わりを告げたけれど、気怠い暑さはまだまだ続いていた。汗でベタつく体が気持ち悪い。 「それじゃあ、これを音楽室まで運んでおいてもらえるかしら?」 「わかりました」 「ありがとう!助かるわ」 私の了承の返事を聞いて、先生はにっこりと微笑んだ。指示された場所に置かれている段ボール箱を抱えると、中身が少し揺れてガタンッと音がした。 「楽器とか繊細なものではないから、そんなに気を使わなくても大丈夫よ」 「あ、はい」 一瞬ヒヤッとした私の表情を見逃さなかった先生が、不安を取り除くように声を掛けてくれた。その言葉に胸を撫でおろして、軽く会釈をしてから職員室を出る。 音楽の教科係である私は、“放課後、職員室から音楽室まで荷物を運んでもらえないかな”と今日の授業終わりに先生からお願いされていた。 大して力持ちでもない私でも十分運べる荷物をお願いされたのは、音楽の先生のお腹が少し膨らんでいることが理由だ。先生のお腹には赤ちゃんがいる。 二年生の始めから音楽の教科係だった私は、重い物を運んだり片付けたりする仕事を率先して引き受けていた。お腹に赤ちゃんがいる大変さはわからないけれど、それがとても尊くて守るべきものであることは分かっていたから、何よりも大事にしてほしかったのだ。
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