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3話
サラサラの透けるような金髪に大きい青の瞳。その瞳は輝きによっては深い青にも浅い青にも映る。肌は透き通るように白く、初見では美しさ故の冷徹さに心が震える者もあった。しかし、目があった次の瞬間、人懐っこく笑う彼に心を許さない者はいない。
陽射しの下、図書館の門にもたれ大きなあくびをする少年がいた。暇を持て余し、トゥルーシュの球を長い脚に転がして遊んでいる。
「リュセ、お待たせ」
涼し気な笑顔を見せるタシャに、少年は下唇を突き出して不満の意を表した。三冊の本を抱えたタシャは申し訳なさそうな表情を作る。
「これでも早くしたほうなんだ」
「いつもは何時間かかってるんだか…」
「さあ、だからお前も中に入れと言っただろ」
「無理無理。俺はどこを見ても字しかないあの部屋にいると窒息しそうになるんだよ」
「またそんなこと言って」
二人で肩を並べ、同じ道を歩き出す。リュセはトゥルーシュの球を頭に蹴り上げ、跳ねさせながら進む。
「シナータ、今日は学校に来なかったな」
昨日は来たのに、とリュセは呟いた。
「昨日は多分…学校側に呼び出されたんだろ」
「学校側に?」
タシャは頷く。
「十八まで義務の教育だから、二年も欠席が続けば学校側もなんとかしなきゃいけないと思うんじゃないか」
「大した授業もしていないくせにな」
吹き出すタシャを見てリュセは赤面する。
「なんだよ…!」
「万年ビリのお前が大した授業もしてないとか言うから…」
「うっせー、運動ではお前にも負けねーだろ」
「すごいすごい」
「くっそー。見てろ」
リュセは体を跳ね上げて球を高く上に飛ばした。落ちてきた球を肩で受け止め、腕を伝わせて手の甲に乗せると、手首から反らせてもう一度高く飛ばす。今度は落ちてきた球を背中を伝わせて後ろで蹴り上げ、頭上を通してつま先にのせる。つま先を立てたまま地面に踵を叩くと、鮮やかな弧を描いて球はリュセが立てた人差し指の頂上に収まった。
どうだ、と言わんばかりの顔にタシャは素直に拍手を送る。すると、リュセは無邪気な笑顔を見せた。大きな瞳をほんの少し細めて、眉を垂らす。無防備に開いた口には白い犬歯が光った。
タシャは無意識に右手で口を押えた。リュセが不思議そうな表情を浮かべる。
「お前、最近よくそうするけど、歯でも痛いのか?」
「…違う」
タシャは自分の右手を見つめた。
これは、余計なことを言ってしまわないように自分の口を塞いでいるのだ。
タシャは今口から出かけた余計な言葉を消すように、右手を握りしめた。
リュセにはタシャのことを羨ましく思うことが度々ある。
例えば、授業で難しい質問もさらりと答えて賞賛の拍手が起こるとき、テストで一番の成績をとって褒められているとき、女の子に囲まれているとき…。
特に、シナータと二人きりで楽しそうに話しているときは、羨ましいだけでなく胸の内が曇り空になる。
シナータは、タシャと二人きりの際、ふといつもとは異なる表情を見せるときがある。それは大抵、タシャがどこか遠くを見て話している時。少し大人っぽい表情をするのだ。只それは、喜びでも怒りでも悲しみでもない。リュセにはその感情が読めなかった。
タシャも、シナータにだけ見せる顔がある。いつも大人っぽく微笑むタシャが、目を輝かせて少しだけ子供っぽくなるのだ。
自分や他の人では引き出せないものを二人は互いに見せ合っている。リュセはそんな二人の空気に時々あてられていた。そして、その事実をどこか素直に受け止められない自分にも気づいていた。
タシャがよく口を押える理由をシナータなら知っているのだろうか。
リュセは心に浮かんだ疑問をかき消す。静かに息を吐くと、口角を上げた。そして、トゥルーシュの球をタシャの頭にぶつける。タシャが顔を上げた。
「早く帰って、姉ちゃんから誕生祝いもらおうぜ」
「…ああ、そういえばソルティは昨日忘れたって言ってたな」
「期待しとけって言ってたよな。楽しみだぜ」
「そうだな」
タシャは大人っぽく微笑んだ。
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