序章

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序章

 昔々、この小さな島に住む人々は争いもなく、平和に暮らしていたという。  ある年に、一つの病院で同時刻に三人の赤ん坊が生まれた。 一人は褐色の肌をした男の子で、タシャ(太陽の子)と、一人は透き通る金の髪をした男の子で、リュセ(月の子)と、そしてもう一人は金色に煌めく瞳を持つ女の子で、シナータ(星の子)と名付けられた。  賢いタシャ、逞しいリュセ、美しいシナータ。彼らは家族のように親しく育った。  しかし、彼らの二十回目の誕生日、タシャとリュセは決裂する。シナータを巡って、それまでにない大喧嘩をしたのだという。二人の喧嘩は止まることを知らず、結局タシャが島の"中央"に行くと書置きを残して失踪してしまう。"中央"には深い森があり、昔から一つの教えがあった。  「そこには魔女がいるから、入っては行けない」と。 そのため、島の者は中央の森に寄りつくことはなく、人っ子一人いない場所であった。  数年後、島の話題は一つのうわさでもちきりになっていた。 「タシャは魔女に会い、魔力を持った」と。 それを聞いたリュセはタシャと喧嘩別れした自分の身を守るため、仲間を集めた。リュセは人望が厚く、集った者は、男女含め島の四半をも超えた。リュセはこれを統率する人物として、共和制であった島で初めての専制君主となった。  しかし、さらに数年、リュセは突然死する。原因は不明とされ、その死は謎に包まれた。リュセを慕う軍の一部は、タシャが殺したとして、怒り狂い、タシャが暮らすと言われていた中央の森の破壊を始めた。彼らは気性が荒く、それまでもやや遠ざけられていた存在であったが、この事件で過激派としてその存在が囁かれた。  見かねたタシャは、森を壊すのを止めるように説いた。過激派は聞く耳を持たず、タシャを襲おうとするも、彼を殺すことはできなかった。彼には仲間がいたからだ。外に住む人たちは知らずにいたが、森の深くには、一つの集落があった。タシャはそれまでそこに身を置いていたのである。その集落の者たちはタシャの知恵で暮らしが助けられたため、彼に恩を感じていた。  彼らの手により、過激派は全滅した。否、一人だけが生き残っていた。彼は腕を負傷し引きずりつつも街まで逃げ帰って、この事実を伝える。島の人々は、彼の惨状に話を信じる他なかった。  軍部は、やや確執はあったものの大事な仲間を殺した、そして自らの君主をも殺した疑いのあるタシャを許すわけにはいかなかった。タシャは、軍の存在を知って、自分の命が彼らの手に落ちることを避けられないと悟った。しかし、黙って殺されるわけにもいかない、と、森の集落の者たちに頼んで生きる道を選ぶ。それはすなわち、戦争を選んだのだった。  ここにターリュン(太陽と月)戦争が始まる。  これが、島の子供たちが学ぶターリュン戦争の始まりである。百年たった今は休戦中であるが、タシャの死は周知の事実だ。しかし尚、終戦とはならない。皆、戦争の目的を見失いつつあり、お互いに引くに引けない状況だからである。今や森に住んでいた人々は街に下り半分を自分たちの領地とした。その分生活が近くなり、小さな衝突も増える。いつ戦争となりうるかも分からない。島の者たちは、終戦の日を待ちわびるばかりである。  これは、今も人々を脅かす戦争のの物語である。
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