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ためらいながらも、私はここで話そうと思っていたことを口にした。
「…………私、実は今まで、彼氏がいたことがないんです……」
「一度も?」
「はい。だからこういうの、よくわからなくて……。でも、彼氏はずっと欲しいなって思っているんです。告白もしたことあるんですけど……フラれちゃいました」
恥ずかしさと情けなさを隠すように、「あはは」と笑う。でも、自分でわかるくらいに、顔はこわばっていた。
「誰かに愛されたことがないんです、私……。死ぬまでに一度、たった一度でいいから、愛されてみたい……。抱きしめられて、『好きだよ』って言われたい。そうやって、幸せな気持ちのまま眠りたいんです…………」
かなり勇気のいる告白だった。
ずっと、心の奥で願い続けてきたこと。
誰かに打ち明けて、笑われたりバカにされないかと不安で、ずっと閉じ込めてきた想い。
でも、「この人には伝えても大丈夫なんだ」と思えた。そんな不思議な安心感が、彼にはあった。
「……全然、恥ずかしいことじゃないよ」
不意に聞こえた、優しい声。
「こんなに可愛いのにね。振った人は、もったいないことしたね」
そんなの、お世辞だ。綺麗事だ。
私を喜ばせるために彼は言ってくれているだけ。わかってる。
「……可愛くなんか、ないです」
「なんで? どうして、そう思うの?」
どうしてって……。
「そんなの愚問だ」と心の中で嘲笑いながら、私は小さい声で吐き捨てた。
「……だって、可愛くないから」
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