添い寝屋カレシがあなたを天国へお連れします

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 とあるマンションの一室。  薄暗い洋室の入口に、私は立っていた。  白で統一されたアンティーク家具と、ツヤツヤとした葉を広げる観葉植物。それらを静かに照らす、あたたかな間接照明。  緊張した心を解きほぐすように、薔薇(バラ)の香りが加湿器からふわりと舞い込む。  おしゃれで、女の子らしい部屋。  でも、ここにいるのは女の子じゃない。  カーテンが閉められた窓際で、人影が揺れる。フローリングに敷かれた布団の上で、こちらへ優しい微笑みを向ける美男子。    思わず、息を呑む。 「おいで」  彼は穏やかな声で呼びかけると、両手を広げたまま、私が来るのを待っている。  少しの怖さと緊張を抱えたまま、一歩ずつ歩み寄っていく。 「……大丈夫。おいで」  再び促され、彼の布団にそっと入ると体を横にする。 「よろしくお願いします……」  とりあえず挨拶したものの、どうしたらいいかわからない。  私は、男性と添い寝をしたことがない。ましてや、初対面の男性となんて……。  でも、『添い寝屋』の彼に添い寝をお願いしたのは、紛れもない私自身。  恋愛に関する一通りの行為に、興味はあった。  一度でいいから、男性からの愛を感じながら眠ってみたかった。愛される幸せを、感じたかった。  じゃないと私は…………前へ進めない。 「……なんでそんなに離れて寝てるの? もっとこっちに来て」 「は、はい……」  狭い布団の中で、彼の体に触れないように精一杯の距離をとっていたのは無意識の行動だった。男性慣れしていないのが、相手に丸分かりだ……。 「せっかく来てくれたのに、ただ横並びじゃ寂しいよ。もっと、もう少し近くへ来て……?」
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