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「何見てんだ? 湊」
「え……」
友人の加藤の声で不意に我に返った。
「成瀬かぁ。あいつ何かおっそろしく目立つよな。持ってる空気が違うっつーか」
二人の話題にあがっているのは、最近このクラスにやってきた転校生。
俺は、無意識のうちに彼を目で追っていることがよくある。それは加藤の言うように、彼の周りだけ空気が違い、思わず魅せられるものを持っているからなのだろう。
「でもさぁ……、なんか近寄りがたいと思わねえ? おまけにあの髪だろ、距離を感じるなー」
そう言われ、確かにと思う。彼は全体的に薄い栗色の髪で、前髪や毛先は色素が抜け金髪といえるほど明るかった。
俺は、クラスの連中から一人浮きたったその髪を見つめながらつぶやく。
「――なぁ、なんであんな色にしてんだろう」
加藤は一瞬、困ったような顔をして答えた。
「そんなこと、俺が知るわけないだろ。てか、なんであいつだけあの頭が許されてんのかも謎だし。お前席隣じゃん、本人に聞いてみたら?」
「聞けないよ。俺、あいつとまともに喋ったこと一度もないし」
正確に言うと、喋れたことだなと後で思った。
本当に俺は、俺だけではなく皆、彼のことは何も知らないと思う。知っているのは、転校してくる前の学校の名前と、転校してきた日と、そして彼の名前。ただそれだけ……。
少なくとも俺はそれだけしか知らない。
だけどその反面クラス中が、いや、ともすれば学年中が、彼──成瀬 勇という存在を意識していた。
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