act.1  冷たい目の転校生

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 3時間目、古典。    窓から暖かい陽の光が射し込んで、先生の説明が子守歌に聞こえるのか、生徒の半分が意識不明の状態だった。  隣で勇も完璧に寝ている。  俺らの席は窓際なので、彼の髪は日の光に照らされて金色をしていた。その髪を見ながら、俺はさっき加藤に聞いたことをそのまま思い返していた。 (どうして、こんなに色抜いてんだろ……)    今までそう思わなかったわけではないが、本当いうと、彼にはこの方が似合っていると思っていたくらいだし、別に気にしてなかった。  勇が他の人よりも目立つのは、もちろんその脱色した髪のせいもあるのだろうけど、そんな見た目なんかよりもっと、内から(かも)し出す他人と違う何かが、彼をおのずと目立たせるのだろうと思う。  ただ、やっぱり良くは思わないヤツもいるのだし……。  色々考えながら光る金糸を見ていたら、突然目を覚まして顔を上げたので、俺は慌ててペンをとり、授業の残り時間を使って作品を要約するという課題に集中しているフリをした。 「今、何時?」    挨拶もろくにしたことがない勇に、またも突然声を掛けられて、俺はひどくうろたえた。 「え? ……あ、えっと……11時10分」  たいしたこと聞かれたわけでもないのに、声が上ずってしまう。 「授業終わる5分前になったら、起こしてもらえね?」 「あ、あぁ。いいけど」  上手く喋れない俺の隣で、課題に取り組む気もなさそうな彼は、また眠そうに身をかがめた。  無意識に見つめていたところに不意に話しかけられて、心の準備が出来ていなかった俺は、詰めていた息を短く吐く。  あの日彼が転校してきた時から、なぜか訳もなく感じている緊張感に左半身を支配されながら、勇の隣は身体によくないかもしれない、と思っていた。  陽気な日差しは、明るく色を返す髪にまた光を落としている。それは、彼が寝返りをうつたび形を変えて揺れていた。
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