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「7月末から休むんで、皆さん宜しくー!」
先輩の田代さんが我先に手を上げた。クールビズ期間に入りノーネクタイのせいか、スポーツ刈りと白シャツ姿は体育のお兄さんだ。
「田代さん、夏休み早いですね?!」
「フジロック行かないと、夏が来た気がしないのよ。留守中、俺の生徒対応は井上くん任せるわぁ」
「ええ、荷が重いです!」
既に心は夏フェスの田代さんに、井上くんは灼けた顔に戸惑いを隠しきれていない。田代さんがトレーナーとはいえ、先輩のフォローは大変だ。というか、先輩の休暇中のフォローって、後輩の仕事なんだろうか。
「今年も宜しく。鬼頭さん」
仕事中にも関わらず大声の田代さん達の陰で、小林さんが私の隣の席、鬼頭さんに囁いた。
天井まで届きそうな長身を屈め、手を合わせている。お願いのポーズに、
「了解です」
私の美人トレーナーは即答。二人の間で通じているらしい。
「小林さんはいつお休みされるんですか?」
「毎年お盆に実家にね。鹿児島」
「遠いですね!」
「小林さん、お土産楽しみにしてます。私も白くまアイス食べたいですけどねー」
白くまアイスと言えば、かき氷にたっぷりの練乳にフルーツを飾ったアイスだ。
「鬼頭さんもすっかり甘党だね?」
「頭脳作業には糖分が欠かせない、ってご助言したの花田さんだもん」
休憩室にお菓子を差し入れする新卒社員の私は、どうやら先輩方に受け入れられている。多分。
「実家、帰りたくないよぉ」
談笑する教務内で、前の席の葉月さんが地を這うような声を出した。
「結婚しろ攻撃を受ける為の帰省なんて……」
「……お察しします」
アラサー独身同士、鬼頭さんが合掌する。
「鬼頭さんはお帰りにならないんですか?」
「……下手に親戚に会ったら、私も見合い攻撃受けるしね」
ぼそりと呟いたのは聞かなかったことにしよう。
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