23人が本棚に入れています
本棚に追加
職員は私を含めて11名。今のところ、田代さんのフェス休みと、松野チーフと古田さん、小林さん、葉月さんはお盆期間を希望している。
ホームルームで生徒に配布したばかりの、X塾夏期講習パンフレットを開く。
ページぎっしりにマス目が並び、7月22日から8月29日までの日にちを横軸に、朝9時から夜20時40分までの時間を縦軸にしたマスに講座が埋まっている。
(やっぱり)
お盆期間を見れば、当然朝から晩まで授業がぎっしりだ。これがクリームならいいのに。
(これは出勤すべきだよね)
授業は講師の先生方が行うとはいえ、生徒が多ければサポートがいるはずだ。
新卒仲間の井上くんを盗み見れば、
「校舎で過ごすのが夏の醍醐味です!」
X塾OBゆえの愛社精神が烈し過ぎるけど、私も思う。
初めての校舎の夏、心してかかるべし。
昼休み、トイレで歯磨きしていると、メイク直し中の鬼頭さんが言い放った。
「毎日うるさいんだから、夏フェスって!」
クールビューティーはお昼と一緒に食べてしまったらしい。
「田代さんですか」
「休み希望はみんなで調整するものなのに譲らないんだよね。……先輩じゃなかったら、即却下するのに」
拳を握りしめたせいか、ビューラーで持ち上げた睫毛がくるんとカールしている。
「毎年どうやって夏期休暇分けているんですが?」
「んー、最終的には神谷さんが調整して下さるけどね」
「なるほど」
「こう言うのはさ……声の大きいもの勝ちなとこはあるよね。言ったもの勝ち、みたいな。あと、既婚者に譲るのも暗黙のルールというか」
確かに、受付の松野チーフと古田さんは既婚で、旅行話に声を弾ませていた。
「あれ、小林さんはどうして」
三十代独身貴族のはず。
「姪っ子にデレデレなの。九州だし一週間お休み」
「だから頼まれてたんですね」
「こっちは文系、向こうは理系担当でも同じ東大志望クラスのチューター同士だからね」
確かに、担任不在時に代理に相談されても、東大対策となるとスペシャリストじゃないときつい。
「私が休みの時は小林さんに頼っているから、有難いけどね。持ちつ持たれつ、かな」
つまり、お休みはお互い様ということだ。
最初のコメントを投稿しよう!