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担当生徒100名の夏の学習計画をチェックしながらも、夏休みのことが気にかかった。
学生の頃は、夏休みを持て余していた。アイスを冷凍庫に忍ばせ、どれだけ種類を制覇できるのか躍起になっていたくらいだ。
でも、社会人は違う。貴重な7日間だ。
働いていると、普段会えない人と過ごす時間は大事なんだろう。
(なかなか会えない、と言えば)
「神谷さんは、夏休みどうされるんですか?」
「僕?」
夏のイベント企画書を、校長席で神谷さんに提出しながら訊いた。
四十代半ばで責任職の神谷さんは、早朝から深夜近くまで校舎にいる。細い体で仕事をこなし、疲れた顔見せない。全国50以上ある校舎でもやり手なんだそうだ。
プライベートでは、3人のお子さんの父親のはず。ちゃんと、家に帰れているんだろうか。
「お盆は保護者様がお休みだからね。夏の三者面談祭りだよ」
(そんなお祭り、初耳ですが!)
「家にいるほうが地獄だから、僕は校舎に避難しているようなもんだよ。お盆に妻の実家なんて帰ったら、居る場所無いし」
細い体をきゅっと縮めてみせる。
「自分の実家も、妻の機嫌取ると考えるとねぇ。はは、結婚なんてするもんじゃないよ」
困り顔で返された企画書には、OK印が笑っていた。
デスクに戻り、鬼頭さんに承認印を見せると「やったね」と褒められた。安心して、思わず呟いた。
「神谷さん、ちゃんと夏休み取れるんでしょうか」
「……休んで欲しいんだけどね。業務振ってほしいけど、部下が代われる仕事は限界があるし、何より神谷さん。責任感強いから」
あのスパイシーな理由は、本音を隠すための冗談だったのか。
頼りがいがあるけれど、心配だ。
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