魔王アリスフィリアと愛憎の勇者

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 水面に浮かぶのは、無数の首のない男の身体と頭部。  今、彼女が左手で引きずっている勇者と同じ顔の――  アリスフィリアは彼の肉体を無造作に水槽の中に放り込んだ。  大きな水しぶきがあがり、しばらくすると彼の肉体が水面に浮かび上がった。  一仕事終えたとばかりに大きく息を吐き出すと、右手に残った頭部を自分の前に持ってくる。  目を見開いたまま絶命した勇者の瞳を見つめながら、優しく囁いた。 「あなたは私を愛しちゃ駄目なの『102号』さん。私をずっと憎んでくれなきゃ駄目だったのよ」  *  薄暗い部屋。  水で満たされた水槽に、一人の男が浮かんでいる。  《彼》の足元に一人の女性がいた。  彼女が動くたびに、《彼》の唇から小さなうめき声が上がるが、女性は一瞥すらしない。  慣れた手つきでメスを操り、膝から先のない《彼》の足から肉の一部を削いでいく。  その時、綺麗に並べられていた魔法石の一つが割れた。女性は削いだ肉を銀色のトレイに移しながら興味のない様子で《彼》に告げる。 「……失敗したようですね」 「そのよう……だな」 「また新たな勇者を送り込まなければいけませんね」
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