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女性は、ピンセットで摘まんだ男の肉を、近くにあった縦型の水槽に沈めた。そして、横にならぶ他の水槽を見つめながら笑う。
水で満たされた水槽の中で身体を丸めて眠り続ける勇者たちの姿を――
彼らを映す瞳からは、人間のもつ倫理観や道徳観など微塵も感じられない。
女性は水槽の一つに触れながら、肉を削ぎ落した男に問いかけた。
「さあ、次はどれにしますか? ……勇者様」
彼女を見つめ返す男の顔は、水槽の中で眠る彼らと同じだった。
*
魔法で映しだした映像を、《彼》は見つめていた。
そこには復活した魔物たちが、人々を蹂躙する光景が映し出されている。
勇者が死んだことで、アリスフィリアは再び人間を侵略し始めたのだ。
魔物たちの背後に、美しい女性が映りこんだ。
まるで穢れを知らない少女のような美しい瞳を細めながら、逃げ惑う人間たちを見て笑っている。
「アリス……」
奥歯を噛みしめながら、かつて共に旅をし、愛した聖女の名を呼ぶ。
《彼》は勇者だった。
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