魔王アリスフィリアと愛憎の勇者

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 違うのは、切られても血を流さず、記憶を一切持たない点だろう。  だからこうして、《彼》の記憶を魔法石を通し、勇者として必要なだけの記憶を――アリスフィリアによって世界が蹂躙され、自分の大切なものを奪われた記憶を与えるのだ。  複製であることを悟られないために。 (アリスフィリアを憎む記憶しか与えていないはずなのに、どうして愛してしまう? どうして……)  例え複製に、愛すると殺される、と伝えても、最後にはアリスフィリアを愛し、殺されるのだ。  それが不思議で堪らなかった。  しかし《彼》の思考は、頭の上で魔力を集めて熱くなる魔法石によって中断させられた。    瞳を閉じ、思い出す。  魔王となったアリスが、自分の生まれ育った村を破壊していく姿を。  自分やアリスの家族、友人たちを、まるでおもちゃのように弄び、殺す姿を。  守ったはずの世界に火の手が上がり、人々の悲鳴が響き渡った様を。  それをただ見ているしかなかった、自分の無力さ、愚かさを。  そして――  (……憎め)  魔王アリスフィリアの姿を思い出す。  憎しみの感情をのせていく。
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